呪いを解くヒントがあるとしたら、そこしか考えられないとベレニスは続ける。
 
「カサンドルの研究で、おそらくその声の主こそ、呪いをかけた魔女ではないかという仮説が立っています」
「泉の神様が、呪いの魔女……?」
「あくまで仮説ですが、今のところ他に有力な説はありません。カサンドルの推測では、泉の水に癒しの力を宿すことで、呪いを浄化しているのではないかということです」

 じゃあ、とエドモンが呟く。

「もしかして……、ネリーがちゃんと泉に行く修行をしたら、癒しの力が強くなるってことですか?」
「そうとも言えますね。長い期間の修行が必要になりますが」

 第一の聖女に上り詰めるには、通常六歳から十八歳までの十二年の修行を必要とする。同年代の聖女たちが次々脱落したりズルをしたりする中で、最後まで真面目にやり通したのがアニエスでありカサンドルであり、ベレニスやドゥニーズだったのだ。
 ネリーとセリーヌが今から頑張っても到底追いつくものではないが、やらないよりマシだろうとベレニスは頷いた。

 ネリーの顔が引きつった。セリーヌの顔も青ざめている。

「そうなんだ! ネリー、頑張ってね!」

 いい笑顔で振り向いたエドモンを、悪魔でも見るような顔でネリーは睨んだ。
 ベレニスは続ける。

「ですが、今回の会合で確認したのは、そのことではありません。私たちは、本来、泉に行くべきなのは、聖女ではなかったことを確かめ合いました」
「え……?」
「私たち四人の聖女は一か所に集まって、泉の神様の、ある言葉について確認し合ったのです」
「ある言葉……?」
「その、ある言葉とは、なんですか?」

 おそるおそる聞いた王と王太子に、ベレニスとドゥニーズは声を揃えてあの言葉を口にした。

「「自分で来いや、ゴルァ」」

 ドスのきいたいい声に、四人の王族と神官長ダニエルはドン引きした。

「つ、つ、つまり……?」
「石段を毎日登るのは、アンセルム、あなた自身なのですよ?」

 あの言葉は泉の神様からの通告と言っていい。

 アンセルムは固まった。ベレニスはにっこり笑った。
 その晴れ晴れした笑顔を、アンセルムが恐怖の表情で見上げる。

 笑顔のまま、ベレニスはエドモンにも視線を移した。

「エドモンも、しっかり頑張りなさい」
「そ、そんな……」

 半泣きになるエドモン。情けない。

 二人の影でホッと胸を撫でおろしているセリーヌとネリーにもベレニスは言った。
 
「王と王太子が自ら石段を登るのです。聖女としての務めも果たせない妃が、よもや、のほほんと待っているつもりはありますまいね」