武器を手に、戦闘態勢で城門に集まる兵士たちの前で、王室の旗を掲げた馬車が止まる。
 先ぶれの男が馬車から降りてきた。

「何の用だ!」

 殺気立った辺境軍兵士たちに睨みつけられ、男はガタガタ震える。

「何の用だって、聞いてんだよ!」

 先ぶれの男がちびりそうになったところで、一番立派な馬車の扉がバーンと開いて、立派な身なりの貴婦人が降りてきた。
 兵士たちの後ろから様子を見ていたベルナールが、おっという顔で呟く。

「ベレニス王太后……?」

 さらにもう一人、魔女を思わせる黒服の老女が馬車から降りてきた。
 フードの下の髪は真っ白でかなり高齢に見える。そのわりと、背筋がしゃんとしていて姿勢がよく、足腰が妙にしっかりしていた。

 ベレニスが口を開く。

「南の大聖女ドゥニーズと王太后ベレニスである。聖女アニエスに会いに来た」
「陛下、遅くなりました」

 ふと見ると、知的な風貌の別の女性がベレニスの後ろに立っていた。

「呪いの研究者カサンドルも来ました。トレスプーシュ辺境伯、私たちを、アニエスに会わせてはくれまいか」

 ベルナールが前に出た。

「アニエスに会って、どうするつもりだ」

 王太后が何を言おうが、もうアニエスを渡すことはできない。
 ベルナールは目を眇めて、王太后を見た。

「連れ戻しに来たのではありません。とても大切なことを確かめるために来たのです」
「大切なこと?」
「泉の神様の言葉について」

 それは、国にとって、そして聖女にとっても、とても重要な言葉なのだとベレニスは言った。

「アニエスにとってもか」
「ええ」

 ベルナールの目力とベレニスの目力が激突する。
 相手が屈しないとわかると、ベルナールは「いいだろう」と頷いた。

「道を開けろ」

 ベルナールの命令で、兵士たちは城門を開けた。

 供の者たちを残して、三人の聖女たちだけが城に迎えられた。