アニエスが目を覚ますと、ベルナールがそばにいて、にこりと笑った。
 キリっとしている時のベルナールもワイルドでかっこいいけど、笑顔を向けられると胸がきゅんとなる。

 イケメンはいいなぁとアニエスは思う。
 男の人がボンキュッボンにふら~っとなっても文句は言えないのである。

 もっとも、顔だけよくてもエドモンには一ミリもきゅんとなったことはないから、そう簡単なことでもないのかもしれない。

 そんなことを考えていたら、ベルナールにキスをされてしまった。

「閣下……」
「アニエス……」

 しばし見つめ合う。
 ベルナールがまたキスをした。

 顔を真っ赤にしながら、なんだかわからないうちに、自分とベルナールはそういうことになったらしいと、アニエスは察した。

 ドキドキする。
 ドキドキして、嬉しくて、幸せだった。

 泉の神様が言っていた。

 好きな気持ちには、素直になったほうがいいよ、と。

 アニエスは素直に「閣下、大好きです」と口にした。
 一瞬、驚いたような顔をしたベルナールが、急にめちゃくちゃなキスをしてきた。心臓がドキドキしずぎて、アニエスはちょっと死にそうになった。

 アニエスの肩に手を置いたベルナールが「アニエス、俺の子を産んでくれ」と言った時、ちょうどソフィが様子を見に部屋に入ってきた。
 手に持った洗面器の底で、いきなりパコーンとベルナールの頭を打つ。
 そして、短く言った。

「順序」
「姉上……」
「王都に行って、アニエスのご両親に正式に申し込むのです。あんなことやこんなことは、その後です!」
「はい……」
 
 兵舎の食堂に行き、みんなと一緒に晩ごはんを食べた。
 かいがいしくアニエスの皿に肉を盛る辺境伯閣下を、兵士たちがニヨニヨしながら眺めていた。



 
 それから一週間ほどたった頃、城門を守っていた兵士がドン! ドドン! と激しく太鼓を打ち鳴らした。

 なんだなんだと演習中の兵士たちが城門に集まる。
 ベルナールも門に向かった。

 正門に続く街道を短い隊列を組んだ馬車が進んでくる。
 前後を守られた中央の馬車には王家の紋章がはためいていた。

「王都から、また何か来やがったぞ!」
「わざわざ首を差し出しに来たか!」