「アンセルムとエドモンをやっつけて、俺が王になったところで、フォールを守れるやつがほかにいるとは思えねえ。ルンドバリが攻めてきても、王都は守れるだろうが、その間に侵攻を受けたフォールの民はどうなる? 少しでも南に進みたいルンドバリは、一度奪った土地を簡単には譲らねえ。そうなれば、また戦だ」

 それでも、王都を攻めるか、とベルナールは兵士たちに問う。

「しかし……!」
「あれだけのことをされて、何もするなって言うんですか!」

 いっそ、王宮ごと破壊して、フォールを王都にしては? と言う者がいた。

「王都は中央になきゃいけねえ。フォールみたいな端っこにあったんじゃ、ここを陥とされたら国ごと失うことになる。バシュラール王国の全ての民を路頭に迷わせちまう」
「我々が、陥とされることなど……」
「俺の後の辺境伯だか王だかが優秀とは限らねえだろ」

 そう言った後で、ベルナールは急ににやけた。

「まあ、俺とアニエスの子が弱っちいとは思えんがな」

 兵士たちがハッと顔を上げた。

(俺と、アニエスの子……?)
(俺と、アニエスの子……!?)
(俺と、アニエスの子……!!!)
(俺と! アニエスの!? 子ーーーー!!!?)

「俺だって、許しちゃいねえよ。俺を刺したことはともかく、アニエスを殺そうとしたんだからな。エドモンには、死ぬより辛い報復を、いつかしてやるつもりだ」

 兵士たちの心のどよめきには気づかず、ベルナールは続けた。

「今、向こうは、いつ攻めてこられるかとビクビクしているはずだ。せいぜい、怖がらせておけばいい。エドモンに加える制裁については、全員で知恵を絞れ。俺も全力で考える」

 アニエスを返さないだけでも大ダメージだろうが、そんなことで許す気はない。
 死ぬより辛い地獄を味わわせてやるのだと、ベルナールは心に誓う。

 そのベルナールを囲んで、兵士たちは思った。

(閣下は、今、めちゃくちゃ機嫌がいいぞ……)
(王太子は、命拾いしたな……)

「いいか! 民には一ミリも苦しみを与えずに、エドモンを地獄に落とす方法を考えろ!」

 おう! と声を揃えた兵士たちの表情は落ち着いていた。

 報復は報復として手を緩める気はないが、敬愛する閣下の幸せな姿を見たせいで、心のお花畑に花が咲いてしまったのだ。
 激しい憎しみの感情は、冷静な怒りに変わっていた。