「こうなったからには、私が直接、アニエスに会って話すしかないでしょう」
「母上が説得してくださるのですか」
「説得するのではありません」

 もはや、王室はそんなことをしたくらいでは、どうにもならないところまで来ていると、ベレニスは重々しく言った。

「あなたがたのボンキュッボン好きは、聖女の力を以ても治しようのない悪魔の病です。未来永劫、ボンキュッボンに翻弄されるのです」
「では、どうしたら……」
「私に考えがあります」

 ベレニスは、かつてある言葉を泉の神様から聞いた。
 それを聞いた時には、とても信じられなかったが、もしも、ほかの聖女たちも聞いていたとしたら、呪われた王が生きるための、それが唯一の答えになるのではないかと考えたのだ。

「神官に命じてドゥニーズとカサンドルの居場所を掴んであります」

 南の大聖女ドゥニーズの居場所は、アニエス捜索の際にすでにフロランが調べていた。
 呪いの研究者となったアンセルム世代の第一位の聖女カサンドルは、辺境伯の持つ記録を調べるためにフォールにいることがわかった。

「ドゥニーズが王都に到着次第、私も合流してフォールに向かいます」
「フォールに行って、どうするのですか……?」
「ドゥニーズからアニエスまでの、四代に亘る第一の聖女が、それぞれ泉の神様から聞いた言葉を照らし合わせるのです」

 修行をしたことのない者には、何を言っているかわからないだろう。
 
 千段の石段を毎日登る者にだけ聞こえる言葉があるのだ。
 泉の神様は、ごく時々だが、何かいいことを言ってくれる。

 聖女は優しくなければいけないよ、とか。
 人を助けるには、自分が強くなくてはいけないよ、とか。
 肉は身体にいいよ、とか。
 野菜も食べなさい、とか。

 そして……。

「とにかく、四人の聖女で、会合を開きます。トレスプーシュ辺境伯が王都に攻めてくるようなら、もう手遅れでしょうけどね」

 アンセルムとエドモンは、今にも死にそうな顔で頷いた。