絶対、全員殺される! 

 そう信じて疑わなかったエドモン一行は、全力疾走で馬車を走らせ命からがらフォール郡を出た。
 馬が弱ってここまでかと思った頃、辺境軍が追ってこないことにようやく気付いた。しかし、少しも安心できず、数日かけて王都に着くまで生きた心地がしなかった。

「なんということをしてくれたのだ」

 王都に帰ったエドモンは、国王アンセルムから厳しい叱責を受けた。

 当然だ。
 こともあろうに、国内最強の軍事力を有する辺境軍の長、トレスプーシュ辺境伯に刃を向けたのだ。
 辺境軍が王都に攻め入ってくれば、数だけは勝るとはいえ王国軍に勝ち目はない。

「しかも、あちらには、本物の第一位の聖女がいるというではないか」

 呪いが真実であることを誰よりはっきり知っているアンセルムは、聖女を有する者だけが玉座に着けることも当然理解していた。
 ほかの誰かが玉座を奪ったとしても、王になった瞬間、呪われる。
 建国400年の歴史を誇るバシュラール王国が、たびたび他国の侵略を受けながらも現在まで続いてきたのは、君主になった者がことごとく呪いの影響を受けて斃れたからだ。
 生き延びるには第一の聖女の力が必要なのだ。それはマジだった……。

 そして、辺境伯は呪いの秘密を知る数少ない人物の一人だ。

(詰んだ……)

 一度受けた呪いは玉座を去っても消えない。
 王様じゃなくなって、貧乏になっても呪われるのだ。そんなの、やってられない。
 生まれながらに呪われた王太子が生きるには、正しい聖女を生涯の伴侶にするほかないのである。

「それを……、おまえというやつは! ネリーのボンキュッボンに目がくらんで、インチキをしたのだろう。この愚か者が!」

 バーンとドアが開いて王太后ベレニスが入室してきた。

「アンセルム、いったいどの口が言うのですか!」
「は、母上……!」
「あなたが正直に、自分のインチキをエドモンに話していれば、エドモンが同じ轍を踏むこともなかったでしょうに」

 自分の后セリーヌをチラリと見て、それはどうかな、ボンキュッボンはアレだからな……と思ったアンセルムだったが、ここは神妙に頭を下げた。