「アニエス……」

 エドモンが伸ばした手をベルナールがバシッと叩き落とした。

「触るんじゃねえ。アニエスは俺のもんだ」

 アニエスを抱き寄せたベルナールを見て、兵士たちの顔が「お! おお?」っという感じに輝く。

 エドモンは必死になった。

「アニエス、私が間違っていた。父も祖母もおまえを連れ戻せと言っている。頼む。戻ってくれ」
「だー、かー、らー! アニエスはもう俺のもんだって、言ってんだろ!」
「しかし、このままでは、私は……」
「しかしもかかしもねえ。あんたの事情がどうだろうと、俺の知ったことか」

 ベルナールが王太子を足蹴にする。文字通り蹴とばした。
 さすがにガラが悪すぎる……と、部下たちですら若干引いたが、俺のもんだという方向性は大変よい。

「殿下。ほかの聖女やネリーに修行をしてもらって、なんとかお達者でいてください」

 アニエスの言葉を聞いても、エドモンは諦めきれない様子だった。

 街道の石畳に座り込んだまま、両手で頭を抱えて何かぶつぶつ言い始める。
 目がイっちゃってる感じになってきた。

「そうか……。アニエスさえそばにいれば、おまえが王になっても死ぬことはない……。だから、返さないんだな」
「何を言ってるんだ」
「わかってるぞ。おまえは、アニエスを利用する気だ……、アニエスの力利用して、私の地位を……」

 殿下? 
 誰かが声を掛けようとした時、エドモンはサッと立ち上がって腰の宝剣を抜いた。

「おまえに利用させるくらいなら……!」
「アニエス!」

 アニエスに向かって突きだされた剣は、とっさにアニエスを庇って抱きしめたベルナールの背を貫いた。