そして、もう一人。
 あの人にも会えれば……。

 魔女の呪いの始まりをいつと定めるかには、二つの見解がある。
 一つはバシュラール王国建国の年からとするもの。およそ400年前からということになる。
 王室はこの考えを採用している。

 もう一つは王室に伝わる聖女の記録を調べた学者が導き出した322年前からというものだ。
 聖女の養成はその年から始まったとされる。

 王室と聖女と呪いの秘密について研究しているこの学者こそ、アンセルムの代の第一の聖女カサンドルだった。
 セリーヌが后に選ばれたために王宮を去り、研究の道に入った。

 何度か他国の支配を受けた時期はあったものの、バシュラール王国の王室は400年もの長きに亘りこの地を治めてきた。
 呪いを受けたにしては、大変しぶとい王室だ。

 聖女が守ってきたのだ。
 泉の神様の声を聞きながら。

 ドゥニーズ、カサンドル、そしてアニエス。
 この三人はきっと、ベレニスと同じ教えを泉の神様から聞いている。

 毎日かかさず石段を登り水を汲む。それを続ける者にだけ授けられる知恵。

 ベレニス一人が訴えても誰も聞く耳を持たなかったその教えを、この機会に今一度、アンセルムとエドモンに伝えなければならない気がした。
 そのために、三人の聖女の力を借りたいと思った。

 秘密を秘密のままにしたいなら、それでもいい。
 しかし、いつまでも王と王太子を甘えさせておくわけにはいかない。

 ボンキュッボンを后に迎えたいなら、なおのこと。

 心を決めたベレニスは、ドゥニーズとカサンドルの居場所を探すよう神官に命じた。

 同じ頃、アニエスとトレスプーシュ辺境伯との婚約の噂を耳にしたエドモンは、フォールに向けて馬車を出せと、必死の形相で側近たちに命じていた。