「…愛してる、絃」
おでこにちゅっと口付けて、彼は玄関の向こうへ消えた。
甘い、甘すぎる…ぜんぶが甘い。
こんなに甘くていいのって不安になるくらいに甘い。
それほどに今日は私たちにとって特別な日らしい。
「いたい……、」
トクントクンと、胸の痛み。
それは嫌なものじゃなくて、苦しかったとしてもドキドキを通り越した苦しみだった。
だから悪いものじゃない。
けど、もうひとつの痛みは別にあって。
「……完全に筋肉痛だ、」
あれから約束どおり陽太の稽古は始まって。
何よりかつての“那岐”の稽古よりもずっとずっと厳しいわけで。
身体がヒィヒィ言ってる。
そこに今朝の甘さが中和してくれて。
いろんな意味でヒィヒィ言ってる…。
「覚悟決めたんでしょ私…っ!」
パンっ!と、両頬を叩いた。
今日はたくさんやることがあるんだからっ!
まずはお買い物だ。
玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉。
「またカレーって言われちゃうかな…」
でも前に美味しいって言ってくれたし、それしか作れないし。
卵焼きもセットしちゃうんだからっ!
……どんな組み合わせだ。
でもそれ前に───…。
「どんなものをお求めですか?」
「…お、大人っぽくて、かわいいものを……」
「それでしたらこちらなんてどうでしょう?」
若い店員さんは眩しいその笑顔に負けないくらい、キラキラ輝く下着を差し出してきた。
わざわざランジェリーショップに入るなんて初めてだ。
「こちらは“大人カワイイ”がコンセプトの下着なんです。
若い女の子から大人の女性まで、幅広く人気なんですよ」



