「みんなには…勉強に集中したいからってことにすれば、大丈夫だと思うから…」


「…あぁ。俺も何とか話を合わせる」



そう、私たちがこういう関係だと知っている者は数人だけだった。

俊吾と、陽太と、お父さんだけ。


それは言わないんじゃなく、言えないのだ。


まだ若頭として全員から認められていないから、余計に危険が付きまとう可能性があるから。

だからこそ他の組に狙われるかもしれない。


だから2人きりじゃない場所では“那岐”と呼んでいた。



「おやっさんには殴られるかもしれねえがな」


「ううん、お父さんがいちばん喜んでくれてるんだよ」



私たちを見てホッとしているのは誰よりもお父さんだった。

それはこの人になら娘を預けてもいいと、どこかで納得しているからだと思う。


そして誰よりも優しい人だから。


それにお父さんは滅多に屋敷にも帰って来ないくらいに忙しくしてるから、逆に絃織と一緒だと安心するんじゃないかな。



「絃織っ、あのねっ!」


「どうした…?」



言わなきゃ。

ずっと言いたくて、でも言えなかったこと。



「私は絶対に絃織を大罪人の息子だなんて見ない。ぜったいぜったい、見ない。昔からそんなふうに見てないよ…!」