あー、うー、なんて言葉を話せるようになって。

ごろんっと寝返りが打てるようになって。

ハイハイができるようになって、つかまり立ちができるようになって。


そしてとうとう───…。



『がんばれ絃!』


『あー、ぎっ』



舌足らずな発音で一生懸命、少年へと向かってこようとする幼子。

四つん這いの体勢からぐっと小さな2本足が身体を支えて、そして手を伸ばしてくる。


自ら近づきたい衝動に駆られるが、ここで手助けをしてしまったならば、今までの絃の頑張りを無かったものにしてしまうから。



『ゆっくりでいいからね』



おいで───と、両手を差し出して迎える。


ゆっくりゆっくり右足と左足を動かす1歳児は、自分の足で歩けている喜びを実感しているのか。

それとも少しずつ大好きな人に近づける喜びを感じているのか。


キラキラ瞳を輝かせて『あーぎ、』と、本人は『なぎ』と呼んでいるつもりなのだろう。



『───やった!ゴール!すごいよ絃っ!歩けるようになった!』


『なったっ』



やがて腕の中に飛び込んできた絃を、ぎゅうっと抱きしめる。

ひょいっと抱っこしてくるくる跳ねるように回って。



『おやっさんに報告しなくちゃ!チヨさんにも!』



この喜びは何よりも幸せで嬉しいもの、どんなプレゼントよりもきっと嬉しい。


絃が、絃が歩けるようになった。


これでもう少ししたら外にお散歩にも行けるようになるだろう。