「いおり…っ」
「どういう状況だよ」
「置いて行かれたの!陽太にっ!」
「あの野郎…」
でも今日は怒らないであげて欲しいな…。
今日は陽太にとって何よりも幸せで嬉しい日だから。
それにこの人にも会えたから、逆に良かったと思った。
「それでね!桜子ちゃんってばすごいフードファイターでお寿司50皿くらい食べちゃって!」
相変わらずBGMのない静かな車内だとしても、私のポンポンと出てくる会話が賑やかさを作ってくれる。
そんなものを優しい顔をして聞いてくれる運転手さん。
「陽太は告白よりも先にキスしちゃって!目の前で見ちゃって!きゃーーー!!」
「…そこだけ記憶から消しとけ」
「えっ、なんで!一生忘れないよっ」
「ぶつけるぞ」
「えっ、なんで!?忘れる場合もぶつけるの…!?」
こんな楽しい会話は久しぶりだった。
やっぱり私たちに静かな空気は似合わない。
たとえ色んな複雑なことがあったって、次の日は「喧嘩なんかしてた?」なんて言えるような。
そんな2人になれたらいいなぁって思うわけなのですが…。
「……絃織、ここ…お家じゃないよ」
「…あぁ、迷った」
「迷ってこんなところに来る…!?」
そこは天鬼の屋敷でも、彼が用意してくれたマンションでもなく。
ホテル街のひとつ、きらびやかでゴージャスな光を纏ったキラキラしているビルのような場所。
…そのまま車で入っちゃってるけど。



