「絃ちゃん…?どうして泣いているんですか…?天道さんも…」
そんなタイミングで帰ってきてしまった桜子ちゃん。
「あっ、いや、これわさび!!陽太がまたわさび入れたから私が仕返ししてね!」
「そうそう、まったくやられたよー」
「こういうところのわさびって意外とツーンってくるんだよねっ」
そんな私へ、ふわっと桜の香りの広がるハンカチが差し出された。
なにも言わずに微笑んでくれる彼女の優しさに助けられてしまうなんて。
「…ありがとう桜子ちゃん」
そして再び桜子ちゃんは陽太の隣へ座ったかと思えば。
ゴシゴシと、その頬に流れる涙を伸ばした袖で一生懸命拭った。
「泣かないで天道さん。お茶は熱いのしかないから…これぐらいしかできませんが…、」
「…桜子、あのさ、」
「あっ、大丈夫です…!ちゃんと石鹸で手は洗ってますから…!」
「うん、あのさ、そうじゃなくてね?」
ここは若いカップルも家族連れも、いろんな人が来るごくありふれた回転寿司屋さん。
そんなひとつのテーブルで泣いてる2人+陽太の涙を一生懸命拭っているお嬢様。
そんな光景があれば、周りはヒソヒソざわざわ音を立てるわけで。
「ほんとは高級ホテルの最上階とか、クルーズ客船とかを予定してたんだけど。
俺は実際そんな見栄を張れる人間でもないから…こういうところがお似合いかも」
「え……?」
細い手はパシッと取られた。
ふわっと茶髪の柔らかいパーマは、いつもよりしっかりセットされていて。
最初から男はそのつもりだったんだろうと、このときはじめて気づいた。



