「それ、お前が重症なだけだから。柊樹が、そういう風に面と向かって話したりできないだけで、そうじゃない人もいるから。」


確かにそうだ。でも、それでも少しくらい、桐生に変化があってもいいのではないか。とも思った。


「柊樹気づいていないだけで、桐生もちょっと前から変わり始めたと思うけど。柊樹はそっち方面にも鈍感なんだな、、、。」


蒼が何か言ったように見えたが、小さくて聞き取れなかった俺は、聞いてみる。


「今、なんか言った?」

「何でもない。それよりも!桐生にいいとこ見せるために、勉強頑張るんじゃないの?」


蒼に言われて思い出す。

そうだ、勉強がんばらないと。

もともと俺は、勉強が得意じゃなかったし、どちらかと言えば、苦手な方だった。好きなわけでもなかったから、中学の時はテストのランキングで、掲示板に張り出されることなんて考えられなかった。でも、少しでも桐生に自分のことを知ってほしくて、テストでランキング上位、、、だけじゃなく、TOP5くらいまでは入れるように、もともと勉強が得意だった蒼と優斗に指導してもらったのだ。

そのおかげで、この間の勉強会で桐生に教えられて、あの時は頼ってもらえているようで内心、すごくうれしかった。

俺は、気合を入れなおして、教科書を開く。


「話ちょっと戻しちゃうけど、告白とまではいかなくても、他に何か”少しでも勇気を出せばできるかもしれないこと”が、あるなら挑戦してみなよ。案外、それがきっかけになるかもしれないんだから。」


いつも通りの落ち着いた声で、優斗にそう言われてしまった。


今さっき出てきたばかりの頭の中の映像が、2,3秒ですぐに消えた。
あの時は、それができないから困っているんだ。と、優斗に言い返したくなってしまったが、”少しでも勇気を出せばできるかもしれないこと”というのは、今まさにこのことではないだろうか。

そう思った瞬間、また走り出していた。もちろん、桐生のいる2年3組のところへ一直線で。俺と桐生は隣の席にしてもらったから場所は分かる。(この学校の観客席は、クラス内だったら自由に席を決めていいんだ。だから桐生たちにお願いして、六人で近い席にしておいた。)
距離はあるはずだが、すぐについた。肩で息をしながら俺は桐生に聞く。
 

「あの、借り物、、、あー借り人競争の方のお題で走ってもらえませんか?」


精一杯の言葉だった。


「え、、、?」


そうだよな。いきなり言われただけじゃ、誰だって驚く。そう思い、ここまでダッシュしてきて話す気力もなかった俺は、お題の紙を桐生の前に見せる。