一週間後の部活の仮入部で俺、蒼、優斗は中学からやっている、サッカー部に入ることに決めた。その子はサッカー部のマネージャーにしたらしくて、一緒に部活ができると知って、なぜか胸が高鳴った。


自己紹介の時、「桐生 陽」と言っていたのでそこで名前を知ることができた。(後から言われた、名札で名前を確認すればよかったのだが、俺はそんなに冷静に考えられるような人ではない。)
 
それから、一年生はみんなそのまま正式に入部した。桐生と一緒の部活になれたのが、なんだかうれしかった。
 
でも、桐生は他の男子にはタオルを渡したり、応援したりしていた。マネージャーのほとんどの女子が俺たち三人のところに来て、顧問の先生から「ほかの子のところにも行け」、と言われているのに対して、彼女は一度も俺たちのころに来なかった。
 
初日に一人だった俺に一番初めに声をかけてくれたくらい、優しい子だったからあえてたくさん集まっている俺たちのところではなくて、他の男子のところへ行っているだけだろうけど、なんだか胸がもやもやした。
 
こんな感情になったのは、初めてだったから何なのか、全く見当がつかなかった。
 
そういえば昔、妹から恋愛マンガの話しをしょっちゅう聞かされていたが、こんなようなの聞いたことがある気がする、、、えっ、もしやこれって「恋」!?
 
本当にそうなのか、と一瞬疑ったが気づいたらいつも笑顔で、クラスに明るさを振りまいている桐生をちょうどその時も、目で追っていることに気づいて、自分の答えに確信を持った。
 
そこから俺の、彼女への”隠れ溺愛”がスタートしたのだ。

 
もちろん、このことは、すぐに蒼と優斗に伝えていた。二人ともかなりビビっていたが、応援してくれた。

 
しかし、それから一年。つまり高校二年生の今まで、俺の恋はまったくもって進展していなかった。それもそのはず、俺は、あれから一度も彼女に話しかけていなかったからだ。
桐生は、俺たちにも全く興味が無かったようで、向こうから話しかけてくれることはなかった。

俺にとって桐生は”一番初めに話しかけてくれた子”だが、桐生からしたら”隣の人にあいさつしただけ”なのかもしれない。

それに桐生は女子にも男子にも、みんなに同じようにしていた。だから俺も、そして俺と同じように桐生のことを好きになったやつも(桐生は結構モテている)、誰一人告白はしなかった(だから本人はモテていることにまったくもって気づいていない)。