―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

天龍に着いた時、透子はまだ店を手伝うために連れてこられたとは知らされていなかった。
さすがの龍道コーチもデートの代わりにこれから天龍で働こう、とは言えなかったらしい。
そりゃそうだ。
普通、言えない。
またここでランチを食べるのねと透子は単純に考えていたのだが、陳さんが「あ、昨日の客は今日の助っ人」と妙なことを言うので嫌な予感がした。
さらに透子の服装を見て「おお、とても素敵ね」と陳さんは顔をほころばせ、「でも油で汚れたら大変」と、キッチンから陳さんとおそろいの白い上着と長い前掛けを2人分持ってきてくれたので、予感が的中したことを知る。

「ねえ、確か今日ってデートだって言わなかったっけ?」

白い上着を羽織った透子は、流し場で洗剤を飛ばしながらハイピッチで皿を洗っている龍道コーチに問い詰めた。

「言った」

キッチンの中は熱い。
龍道コーチは油でぬめっている皿を洗いながら額の汗を白い上っ張りの袖でぬぐった。

「これってデート?」

龍道コーチが答える前に陳さんがキッチンの中から「はい、これ3番テーブルお願いね」とチンジャオロースと空心菜炒めをてんこもりに持った大皿を差し出してくる。
重い。
指にぐいっと力を入れて左右に一つずつ皿をつかむと、「おおー」と陳さんが声を上げた。

「さすがテニスで鍛えているだけあるね。それ、フツーの女子は持てないよ」と感心する。

上っ張りの袖をまくり上げ、皿をつかんだ透子は「そうですか?」と得意げに笑った。
龍道コーチは流しに向かって噴き出した。
大皿を持てるからと褒められて喜ぶ女はめずらしい。

土曜の休日、デートに誘われたのになぜか働かされているという状況の中、透子はよっしゃっと気合を入れなおし、皿を3番テーブルへと慎重に運んでいった。