―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

レッスン後、生徒たちに囲まれ笑顔で対応している泉コーチに視線をやりながら、透子はすぐに更衣室に向かった。
ほかの生徒たちが戻ってくる前に着替えを済ませて外に出たので待たされるかなと思っていたが、透子がマックの前に着いてから間もなく車のクラクションが鳴った。

「おまたせ」

ブルーのミニクーパーから泉コーチが顔をのぞかせる。

中からドアを開けてくれ、透子は失礼しますと言って助手席に体を滑り込ませた。
車内は片付いていた。
というよりレンタカーのように何もなかった。

「みんなにつかまっていたのに早かったですね」

「その代わり着替えないままダッシュしてきた」

汗臭いかもと笑う。
ポロシャツにハーフパンツのテニスウエアだが、普通にお洒落でカジュアルな装いに見える。

車には乗ったが、車内で龍道コーチとの1カ月間の約束について説明したら、透子は車を降りて帰ろうと思っていた。
けれど話し終わると「そこまで律儀に気を遣うことないよ」と泉コーチは笑って取り合わず、さらには「尾行調査してたとしたら、この車に乗った時点でアウトじゃないの?」とか「だいたいそういう新君は今頃他の女の子とご飯食べているかもよ」とか、透子を不安にさせながら車を走らせ、気づいたら小さな中華料理店の前に到着していた。
赤い看板に大きく『天龍』と書かれている。