―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

2人が後ろに立っている様子が田淵には見えていたのだ。

「あ、おじさん、お久しぶりです」と挨拶する泉コーチの首にヘッドロックがかけられた。
「う、新さん……冗談です、冗談」
「だよな、俺、お前に優しくした覚えしかないし」
「まじ、苦しいってば」

泉コーチがもがく。
でかい子供のじゃれ合いだ。

「新、いいかげんにしなさい。泉君、いつもすまないね」

父親が苦笑し、それから龍道コーチに目配せをした。

「ああ。こちらはドラゴンウエイに通ってくれている田淵さんと、そして彼女が水之さん」

「おお、あなたが水之さんですか。その節は新を助けてくれてどうもありがとうございました」

丁寧に頭を下げられて透子は恐縮し、「そんな、助けたというほどのことでは。それに大昔のことですから」としどろもどろになって、父親よりもさらに低く頭を下げた。
透子が頭をあげると、「こいつは助けていただいたのに、怪我をしたあなたを置き去りにして帰ってきたそうで、本当に申し訳ない」と、今度は父親は立派な眉を下げた。

龍道コーチは、置き去りにされたのはこっちだけどなとつぶやきつつも「俺、お詫びもかねて彼女としばらく付き合うことにしたから例の件はとりあえず断ってもらえるかな」と父親に言い、父親は
突然の交際宣言に目をぱちくりさせて龍道コーチと透子を交互に見た。

しかし透子にも突然この男は何を言い出すのかと事情が呑み込めず、その目を見返すしかなかった。

意味不明の宣告に皆が固まっているなか、龍道コーチは「じゃ、そういうことで」と軽く手を上げ笑顔で去っていった。

父親も怪訝な表情を浮かべたまま「失礼」と、慌てて龍道コーチの背中を追っていった。