―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

「あ、そうそう、明日さ、透子さんが暇だったらライブに付き合ってもらおうと思ったんだよ」
「ライブ?」
「バンドやっている大学時代の先輩から野外ステージのチケット買わされちゃったんだよ。仕事は日曜にやればいいじゃん」
「どれくらいかかるかわからないから、明日やっておきたいんだよね。ごめんね」

2人の会話を聞いていた泉コーチから「もしかして2人はカップルなの?」と聞かれて、田淵がブハっとむせる。

「ただの同僚です」と、透子が訂正しておく。

「ふうん」

今一つ納得していないような面持ちで、慌てて口元をぬぐっている田淵を泉コーチは観察するような目つきで見ていた。

そのとき近くに華やかなざわめきを感じて、3人は自然と視線を斜め右方向に流した。
そこにはいつの間にか家族の輪から抜けて男女6人のグループに囲まれて笑みを浮かべている龍道コーチがいた。

セルリアンブルーのスーツ、白いシャツの襟のボタンを2つ開け、派手なのに嫌みなく涼やかに着こなしている。
まるで群れの中で1羽だけほかのものとは異なる美しい羽を持った鳥のようで、彼の姿は人ごみの中でもすぐに見つけることができる。
探す必要はない。
自然と目が引き寄せられるのだ。

「どこにいても目立つね」「本当に」

充分イケメンな2人も龍道コーチの姿に引き寄せられている。

「あんなに容姿端麗なんだから、お父さんも結婚なんて焦ることはないのに」

田淵がちょっぴりうらやましそうに言う。

「逆にそれをいいことに独身貴族を続けそうで、お父さんは不安なんじゃないかな」