―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

「わかった。長く続けたいんだな」

龍道コーチはそのシーンを想像して緊張し、大きく息を吸った。

「うん。贅沢は言わないからとりあえずまともに打ち返したい」
「打ち返したい――って、何を?」
「球に決まってるじゃない」
「おい、もしかしてテニスの話かよ」

透子が訝し気な目をして龍道コーチに顔を向けた。

「そうよ、ほかに何があるの?」
「いや、な、縄跳びとか」

無理のあるごまかしだったが、透子は「縄跳びは別に上手にならなくてもいいもの」と、また真面目に答えてきたので龍道コーチはほっとした。

「わかった。だけど天龍でのバイト代より俺の体の方が断然高い。俺の体で支払う場合、換算すると1分程度になるからウォーミングアップで終わるな。もしくは1分でできることなんて、俺にはコートでの長いキスしか思いつかないけど」

と言って透子の顎を持ち上げた龍道コーチの長い指は透子の手の甲で振り払われた。
まるで目の前に飛んできた羽虫を追い払うかのようなぞんざいさで。

龍道コーチがこんなに露骨に拒否されることはめったにない、ほとんどない、いや、人生において1度もなかった。
そしてこれしきの事に自分でも驚くほどショックを受け「冗談だよ。なにもそんなに嫌がらなくたって」と口をとがらせた。