あれは、5月のこと。
中学生から始まるもの。
色々なものが生まれる、所謂、青春の場所。
部活。
特に好きなものも、打ち込んでいたものも無かった私は桃と同じ卓球部に所属した。
だけど、コートにピン球を入れることすらままならなくて。
ピン球が思い通りに動いてくれなくて。
私に逆らってばっかりで。
すごく、不器用な自分に苛立ちを感じた。
私が、簡単なことに手を煩わせている間に皆、どんどん上手になっていく。
私だけ、置いて行かれて。
皆との技術の差が凄かった。
初めのうちは、皆ああしたら、こうしたら、とアドバイスをくれた。
だけどいつまでも改善されてないから、皆私を見捨てた。
唯一話しかけてくれるのは、桃。
桃だけは、名前の通り、桃のような、優しく、柔らかな笑顔で私にコツを教えてくれた。
だから、別に不満とかは感じなかった。
問題は、桃がいないとき。
私はいつも一人、壁にピン球をぶつけていた。
卓球台には入れなかった。
そんなある時、一人で壁打ちをしていたら、低く、甘やかな声が私を呼んだ。
「桜木先輩……?」
私が顔を上げないと、目が合わないような身長。
私を見下ろす時に顔に影がかかり、何だか大人な雰囲気だった。
いつも艶があり、それでいて滑らかな髪がラケットを振る度に揺れ、心に釘を刺されたように印象に残る。
顔は……特別イケメンでは無かったけど、整っているほうだとは思う。
いつも白い歯が光り、細められた目からは陽光のような温かい光が放たれていた。
ここまで言えば分かるだろう?
彼は、学校でナンバー1、2を争うくらいのモテ男なのだ。
「お前、いっつも一人で壁打ちしてるよな。教えてやるから、台入れよ」
言われるがまま、ピン球を叩いた。
だけど、桜木先輩のピン球は重くて。
ラケットに当たっただけで、手が痺れそうで、あちらこちら、遠くに飛ばしてしまう
。
結局、先輩を走り回させただけだった。
「す、すみません……」
恥ずかしさと申し訳なさで、穴があったら入りたい気分だった。
「いいよ。それよりさ、《私》、素振りやってみてよ」
びゅん、と風を切り裂く音が耳許でした。
「うーん、もう少し腰を回して」
「こう、ですか?」
「うーん……」
中学生から始まるもの。
色々なものが生まれる、所謂、青春の場所。
部活。
特に好きなものも、打ち込んでいたものも無かった私は桃と同じ卓球部に所属した。
だけど、コートにピン球を入れることすらままならなくて。
ピン球が思い通りに動いてくれなくて。
私に逆らってばっかりで。
すごく、不器用な自分に苛立ちを感じた。
私が、簡単なことに手を煩わせている間に皆、どんどん上手になっていく。
私だけ、置いて行かれて。
皆との技術の差が凄かった。
初めのうちは、皆ああしたら、こうしたら、とアドバイスをくれた。
だけどいつまでも改善されてないから、皆私を見捨てた。
唯一話しかけてくれるのは、桃。
桃だけは、名前の通り、桃のような、優しく、柔らかな笑顔で私にコツを教えてくれた。
だから、別に不満とかは感じなかった。
問題は、桃がいないとき。
私はいつも一人、壁にピン球をぶつけていた。
卓球台には入れなかった。
そんなある時、一人で壁打ちをしていたら、低く、甘やかな声が私を呼んだ。
「桜木先輩……?」
私が顔を上げないと、目が合わないような身長。
私を見下ろす時に顔に影がかかり、何だか大人な雰囲気だった。
いつも艶があり、それでいて滑らかな髪がラケットを振る度に揺れ、心に釘を刺されたように印象に残る。
顔は……特別イケメンでは無かったけど、整っているほうだとは思う。
いつも白い歯が光り、細められた目からは陽光のような温かい光が放たれていた。
ここまで言えば分かるだろう?
彼は、学校でナンバー1、2を争うくらいのモテ男なのだ。
「お前、いっつも一人で壁打ちしてるよな。教えてやるから、台入れよ」
言われるがまま、ピン球を叩いた。
だけど、桜木先輩のピン球は重くて。
ラケットに当たっただけで、手が痺れそうで、あちらこちら、遠くに飛ばしてしまう
。
結局、先輩を走り回させただけだった。
「す、すみません……」
恥ずかしさと申し訳なさで、穴があったら入りたい気分だった。
「いいよ。それよりさ、《私》、素振りやってみてよ」
びゅん、と風を切り裂く音が耳許でした。
「うーん、もう少し腰を回して」
「こう、ですか?」
「うーん……」



