「どうぞ、入って、成瀬君」

「お邪魔します!」

 成瀬君は一礼し、靴を脱ぐと揃え直した。
 きちんと、しっかりした成瀬君を見ながら……お母さん固まってた。

「お母さん、ほら、挨拶して!」

「は、はい! ご、ごめんなさい。ゆいの母で陽子(ようこ)と申します」

「改めまして! 宜しくお願いします。これ、つまらないものですが、おみやげです」

 成瀬君は、紙袋をふたつ持っていた。
 まずはおしゃれなデザインの紙袋をお母さんへ渡した。
 一礼して受け取るお母さん。
 中身は、成瀬君のお母さんお薦めだという有名なケーキ屋さんの焼き菓子。
 今日ウチへ行くと話したら、用意してくれたのだと聞いている。
 
 ちなみに、もうひとつの紙袋は持ったまま。
 こちらは今日の作戦の為、後で使うのだ。

「こ、こ、これは! ご、ごていねいに」

 そんなお母さんへ、成瀬君は言う。

「お母さん」

「は、はいっ!」

「お願いがあります」

「お願い?」

「はい! いつも彼女と話しているような言葉遣いで話しても構いませんか?」

「いつも? ゆいと話しているような?」

「はいっ! 俺、いつも彼女と気安く話していて……呼び方も名前を呼び捨てにしているんです」

「え? 名前を? じゃ、じゃあ、成瀬君はゆいって、よ、呼んでいるの?」

「はいっ! 俺、彼女をゆいと呼んでいます」

 ここは私も成瀬君をフォロー。
 言うべき……だろう。

「お母さん、私は全然OK! 慣れてるし! その方が!」

「ゆ、ゆいが許すのなら、私はとくに……」

「じゃあ、OKですねっ!」

「は、はい」

 成瀬君のさわやかな笑顔に圧倒されたお母さんはぎこちなく、頷いたのである。