「へ~っ! かっこいわね~! ゆいと同じ中学の成瀬君っていうんだ。俳優さんかモデルさんみたいっ! 本当にこの子が彼氏なの?」

 お母さんはスマホの画面をじいっと、食い入るように見た後……
 首を少し傾げて、私を見た。

 は?
 本当に?
 ……本当に彼氏なのって、何?

 失礼なっ!
 実の娘に向かって、何を言う。

 「むっ」とした私はすごもり前の『りす』のように「ぷくっ」とほおをふくらませる。

「成瀬君は本当に! 私の彼氏ですっ!」

「あはは、冗談よ」

「もう!」

「でも、ゆいはどうして成瀬君と知り合ったの? 同じクラスじゃなく、隣のクラスなんでしょ?」

「……そうなんだけど。ええっと……楽葉原のアニメイベントで……」

 お母さんに聞かれ、私は成瀬君との出会いを話した。

 成瀬君は中学校では有名人。
 成績優秀でスポーツ万能、野球部のエースって事も。
 そんな彼と、マニアックなアニメのイベントで出会い、意気投合したのだと。

「へえ、この子、ゆいと同じで、アニメとラノベが大好きなの? ぜんぜんそうは見えないけど」

「……そう言われるのがすっごく嫌だったって。成瀬君」

「ふうん、そうなんだ」

「それに私といると、とっても素直になれるんだって」

 成瀬君の言葉を伝えると、お母さんは頷き、ひどく真剣な表情になった。
 
 これは、まだストレートな質問が来る!
 と思ったら、やっぱり来た。

「なるほどねぇ。それであなたたち、どこまで進んでるの?」

「どこまでって?」

「ほらキスとか」

「……何もないよ。学校で一緒にお昼食べたり、楽葉原(らくはばら)で、手をつないでデートしただけだもん」

「手をつないで、デートしただけ? ……ふたりきりでプリクラ撮った時に、キスとかしなかったの?」

「してないよ。……成瀬君、全然いやらしくないもの」

「へ~。……今どき珍しい子ね」

「成瀬君、すっごく、まじめだよ」

「そっかぁ……私、成瀬君と話したくなったよ」

「お、お母さん」

「次の週末の土曜日。成瀬君の都合を聞いて」

「え?」

「もしも成瀬君の都合が良かったらウチへ連れて来なさい。ちょうどお父さん、また出張だし」

「ちょうどって……」

「娘だから、お母さんは自分の昔を思い出して、同性のよしみで受け止められるけど……娘命(むすめいのち)のお父さんは、とても冷静でいられないでしょ? 想像したらわかるじゃない?」

「た、確かに!」

 もしも、お父さんが成瀬君の事を知ったら、大きなショックを受けるに違いない。
 私にず~っと、彼氏がいない事を喜び、何かにつけて「お嫁に行くなよ」が口ぐせなのだから。

「ゆいの話を聞いていれば、とっても良い子だと思うし……ゆいと同じ女子同士、お母さんがクッション役になってあげるわよ」

 ウチへ連れて来なさい。
 私に会わせなさい。
 クッション役になってあげる。

 どうせいつかは、成瀬君の事を私の両親へ話さなければならない。
 良いタイミングかもしれないかも。
 
 お母さんの『ありがたい申し出』に、私は大きく頷いていた。
 
 成瀬君を、お母さんに紹介する。
 
 決意した私はこの日、すぐ成瀬君へ電話した。

「おう、土曜日か、良いよ。都合つけて絶対に行くよ」

 成瀬君は快くOKしてくれた。

「お父さんは出張で不在。だから、成瀬君はお母さんと話す事になるよ」

「お母さんと話すのか……了解! 俺にいい考えがあるよ。…………こういうのどう?」

 成瀬君は、とても素敵なアイディアを出してくれた。

「へえ! それ面白そう! いつもみたいにランチするんだね。ウチのお母さんも入れて3人で」

「そうそう。俺、まずは、ゆいのお母さんに気に入ってもらわないと。お父さんに気に入ってもらえない」

「お母さんが第一関門って感じかあ……大丈夫? 両親は私が説得しようと思っていたから、あまり無理しないでね」

「大丈夫、俺に任せておけ! その代わり、ゆい、全面的に協力してくれよ」

「うん!」

 という事で、次の週末の土曜日、成瀬君が我が三島家へ遊びに来る事となったのである。