白鳥さんからおみやげの紙袋を渡された。
 大きな方は何か高そうなお菓子。

 小さい方は私へ貸してくれるラノベの文庫10冊。
 当然……彼女の大好きな悪役令嬢もの。

 白鳥さんの放つお嬢様オーラに緊張するお母さんに、おみやげのお菓子を渡し、
「任せて」と告げ……
 私は用意してあった紅茶のポットとカップふたつを持ち、白鳥さんを自分の部屋へ案内した。

 部屋をぎっしり埋める大量のラノベ、マンガ、アニメ関連を見て、白鳥さんは感嘆する。

「わあ、すごい! 素敵ね!」

「あはは、素敵って、単にオタク部屋だよ」

「わお! すごい数のラノベとマンガ。アニメのDVDも!」

 しかし私は首を横へふる。

「いやいや、すぐ白鳥さんに追い抜かれるって」

「そう?」

「そうだよ、いくら私でも月に100冊はラノベを買わないよ」

 私はそう言い、ポットから紅茶を()れる。
 ふたりで温かい紅茶を飲み、オタク話に花が咲く。

「うふふ……ゆい、ありがとう」

「ありがとうって?」

「ラノベって、私がまったく知らなかった世界だから……ゆいと成瀬君が大好きな世界……私も混ぜてくれたんでしょ?」
 
「混ぜたっていうか……私はファンだから、気が合う人に大好きな作品を布教したがるっていうか……」

「気が合う人に布教? うふふ、面白いね。成瀬君のハムカツサンドと一緒だ」

 白鳥さんは屈託なく笑った。
 とても可愛い笑顔だった。
 
「白鳥さん」

「ん?」

「私は悪役令嬢ものは好きだけど、白鳥さんへ布教したのは違うジャンル。だから、きっかけだけ」

「きっかけ……だけ?」

「うん! 白鳥さんは自分で興味を持ってラノベの世界へ入ったと思うよ」

「私が自分で興味を持って……そっか。ラノベの世界……奥深いよね」

「うん、深いと思う」

「ゆい、私思うんだ。リアルな世界の小説も面白いけど……なんか、ワクワクするっていうか、自分の空想する世界に近い設定を書いてくれる作者に巡り会うと嬉しいっていうか」

「うん! 分かるよ!」

「作者は良く主人公に自分を投影するっていうけど……読者もそうかもしれない。すべてではないと思うけど」

「うん、だね。私はラノベを読むのって、主人公の人生の旅に同行しながら、一歩、二歩、離れて……みたいな感覚が好きなんだ」

「旅……あ、それ分かる。主人公の行動や発言に大体同意しながらも、少し離れて客観的にも見るっていうか」

「客観的……それそれっ! 白鳥さん、うまい!」

「うふふ、ゆいの言う通り、小説やラノベを読むって、違う人生を送る人に同行する事かも」

 白鳥さんと話しながら、同意し、実感する。
 人生は旅なのだと。

 私は今、いろいろな人と人生の旅をしている。

 両親は勿論、大切な人たち、巡り会った成瀬君と白鳥さんとも。
 私の大事な人たちと出来る限り一緒に、そして長く旅をしたい!
 嬉しそうに話す白鳥さんを見ながら、私はそう思ったのである。