成瀬君が今までご両親にも友だちにも言わなかった将来の夢。
 イラストレーターになる夢を、私だけに教えてくれた。

 私と成瀬君だけの秘密。
 誰にも言わない。

 すごくすごく嬉しかった。
 本当に成瀬君はすごいよ。

 勉強ができて、スポーツ万能で、将来の夢のためにずっと頑張っていた。
 そんな成瀬君との出会いで私も変わって行く。
 いえ、変わるんだ。

 いきなりで、変なたとえだけど……
 私が料理だとしたら、成瀬君はスパイスだ。

 平凡なモブ料理だった私が、成瀬君という素敵なスパイスで、味が引きしまり、香りが加わる。

 なんか単純で他力本願だけど、人間が変わるきっかけなんてそんなもの。

 成瀬君が私の作品を読んでくれて、イラストまでつけてくれる。
 それだけで励みとなる。

 頑張ろう!
 後で悔いのないよう全力で頑張ろう。

 そういえば、誰かが言っていたっけ。
 「人生において、絶対に手を抜いてはいけない時期があるぞ」って。

 成瀬君と出会った今、この時期が私の人生において、手を抜いてはいけない、絶対に手を抜いてはいけない時期なのだ。
 いわば、ターニングポイントに違いない。

「勉強でもスポーツでも趣味でも、なんでも。徹底した基礎の習得、そして応用、さらに経験を積む事だ……と俺は思う」

 勉強、スポーツ、趣味……
 子供の頃から有言実行して来た成瀬君の言葉には重みがある。

 小説の基礎は文章力に、博学な知識。
 次にアイディアその他もろもろ。
 最後は集中力とセンス……だと思う。

 私は大好きな国語、世界史以外の勉強にも精を出した。
 分からないところは、成瀬君、白鳥さん、他の友だちにも聞いた。

 代わりに、私が知っている事を聞かれたら、教えた。
 そのかいあって、成績もじょじょに上がって行った。

 い~っぱい本も読んだ。
 乱読だった。
 書店へ行き、何冊か本を購入した。
 
 学校の図書室にも入りびたった。
 ほぼ毎日、あまりにもひんぱんに行くものだから、図書委員の先輩女子とも仲良くなっちゃった。

 頑張ったから、何事も上手くいくわけはない。
 努力したから絶対報われるとも思ってはいない。
 でも夢は願うだけではかなわない。

 だが、今回は運も味方してくれた。
 小説の方は読者がつき、投稿サイトにおける作品のPVが伸び始めた。
 ちなみにPVとは、Webサイト内のあるページへのアクセスがどの程度あったかを測る指標である。
 つまり私の作品が読まれ出しているという事。

「おお、ゆい、やったじゃないか! 俺もイラスト頑張るぞ」

 成瀬君へ伝えたら、自分の事のように喜んでくれた。
 私は、ますます気合が入り、充実した日々を送っていたのである。