成瀬君の『お願い』は私のまったく想定外、驚くべきものだった。

「ゆいの書いた作品を俺はしっかりと読む。世界観も理解する。その上で、作品のイメージイラストを描かせてもらえないだろうか?」 

「な、な、な、成瀬君が! イ、イ、イメージイラストっ!?」

 思わず声が大きくなった私。
 周囲のお客さん達の視線が私と成瀬君へ集中する。

 苦笑した成瀬君は、人差し指を立て、くちびるにあてる。

「し~っ、ゆい。声が大きい」

「ご、ごめん」

 あやまる私へ、成瀬君は声をひそめて言う。

「ゆいの投稿しているサイトって、イラストデータが添付(でんぷ)できるんだろ?」

「出来るけど……びっくり。すごくびっくりしたよ」

「わるい、驚かせて、でも、ゆい……」

「……ん、うん」

「親にも友だちの誰にも言ってない。だから内緒にしてほしいんだけど、実は俺、将来イラストレーターになりたいんだ」

「イ、イラストレーター!?」

「ああ、小学校入ってから、ず~っと練習してる。最初はチラシの裏のラクガキだったけどな」

「そ、そうなんだ」

「これ見てくれ」

 成瀬君が見せてくれたのは、イラストの投稿サイト。
 色鮮やかなスマホの画面には、かわいらしい女の子がピンクの花いっぱいのバックの中……可愛く微笑んでいる。

 またまたびっくり。
 多才な成瀬君は、イラストも得意だったんだ。

 そして、この女の子、見覚えがあるキャラだ。

「パソコン使って描いたんだ。俺とゆいが大好きなアニメキャラの模写だよ」

「うっわ! 上手(うま)い」

「まあまあかな。それとこういうのもある」

「おおっ」

 成瀬君が次に見せてくれたのは、妖精……エルフの絵だった。
 透明感いっぱいって感じ、スレンダーな美人お姉さんキャラだ。

「こんなの、どうだ?」

 次は敵キャラっぽい魔物。
 猿みたいなゴブリン、ブタみたいなオーク、そして怖ろしいドラゴン。

「す、すっごい!」

「最後は男子キャラだ」

 最後に成瀬君が見せてくれたのは、りりしい騎士(ナイト)のイラスト。

「うっわ、かっこい~。少し成瀬君に似てる!」

「いやいや、かんべん。俺、こんなにかっこよくないって」

「うふふ、かっこいいよ。成瀬君は私を守ってくれるナイトだもんね」

 あはは、言っちゃった。
 いつもの私にはまったく似合わないセリフだ。
 でもこういう甘え方も、デートらしくていい。

 成瀬君もまんざらではなさそうだ。

「ははは、かっこいいナイトはともかく、俺がゆいを守るのは合ってる。という事で、どうだろ?」

「全然OK! っていうかお願い! 成瀬先生、私の作品にイラストつけてください。お願いします」

「あはは、俺は、先生じゃないけど、任せろ」

 うっわ!
 やったあ!
 こんなに幸せでいいのかしら。

 大好きな人が私の作品を読んでくれて、素敵なイラストも描いてくれる!
 よ~し! 頑張るぞぉ!!
 絶対に素敵な作品を書いてみせる!!

 
 うきうき気分の私は夢ごこちで、カフェランチをむしゃむしゃ、ほおばった。

 ハッピーなランチの後も、私と成瀬君は一緒にゲームを楽しんで、ふたりきりでプリクラを撮った。

 最後に歩行者天国を、手をつないで仲良く歩いた。
 こうして、私の生まれて初めてのデートは最高の想い出となったのである。