成瀬君は私にとって初めての彼氏。
 意外な事に私も成瀬君にとって初めての彼女……だと彼は言う。

「うっそぉ」

「ホントだって!」

「信じられないよ。成瀬君モテモテだし」

「いやいや……ゆい、お前が初めての彼女だって!」

 成瀬君との交際が始まってからも、ふたりのやりとりは変わらない。

 初めてアニメのイベント会場で出会い、盛り上がった時から話し方は同じだ。
 彼の呼び方も下の名前の悠真(ゆうま)じゃなく、成瀬君って呼んでいるし。

 そして学校で会うのは昼休みだけ。
 ふたり一緒にランチを食べる。
 いろいろあって、次の週末に『初めてのデート』をする予定だ。
 
 デートの場所は当然ふたりが出会った記念すべき大好きな場所。
 アニメとラノベの聖地『楽葉原(らくはばら)』である。

 最近は、成瀬君が大好きなハムカツサンドの割合が多くなった。
 クリームパンと交互にってローテーション。

 ランチの時の話題はアニメとラノベ。
 カミングアウトしてすっきりしたのか、成瀬君はとっても生き生きしている。

 時たま、白鳥さんが(まざ)り3人でランチ。

 最近白鳥さんはラノベを読み始めた。
 ハムカツサンドをほおばりながら、白鳥さんは言う。

「ゆい! どーしてくれるの、ラノベ!」

「え? どういう意味?」

「勉強の息抜きが息抜きじゃなくなったのよ」

「???」

「だって! おもしろすぎるっ! 楽しすぎるっ! 気がついたら3時間くらいラノベ読んでるんだもん!」

「おいおい、白鳥さん……それ、わたしのせい?」

「そうだよ! ラノベを教えてくれたゆいが悪いっ! でもでもっ! 悪役令嬢(あくやくれいじょう)、最高っっ!!」

「ええと、それって、白鳥さんが悪役令嬢にすごくシンパシー感じてるんじゃ……」

「ゆい、何か、言った?」

「言ってませ~ん!」

「あははは、ゆいと白鳥さん、何、漫才やってんだよ」

 なんて、最後には成瀬君に思い切り笑われてしまいましたとさ。