放課後の午後3時すぎ……
 私と成瀬君は屋上にいた。

 当然ながら、白鳥さんはいない。
 いいえ、来ない……

「白鳥さんへ話し合おうって伝えたんだけど……断られたよ、きっぱり」

「まあ、そうだろう。もしも来たって、白鳥さんが一番望む結果は、絶対に得られないから」

 成瀬君も私と同じ考えだった。
 渋い表情の成瀬君は唇を固くかみしめ、肩をすくめた。

「仕方がない。俺たちはどうする事も出来ない」

 私には、もうひとつ気になっている事があった。

「ええっと、白鳥さんへ告白した成瀬君の友だちは?」

「同じさ。俺たちではどうしようもない。なるようにしかならない。下手に何かやれば、それこそ余計なおせっかいになってしまうよ」

「そうだよね……」

 私が力なく同意すれば、成瀬君は心配そうに私を見る。

「ゆい」

「なあに?」

「俺はお前の方が気になるよ」

「気になる? 私が?」

「白鳥さんはクラスの女子のリーダーだろ?」

「確かにそうだけど」

「白鳥さんがどんな性格なのか、俺には分からない」

「それって」

「もしも白鳥さんが、今回の件でゆいを逆恨(さかうら)みして、彼女を中心にクラスの女子が結束(けっそく)したら、ゆいは『ぼっち』になっちまうぞ」

 成瀬君が心配してくれるのはとても嬉しい。

 でも……よくよく考えたら、以前と変わらなくなるだけ。
 そんなの全然平気だもん。

「あはは……元々、私はぼっちだったから、元に戻るだけだよ」

「無理に強がるなって! 全然平気じゃない、何かあったら俺に言え! 頼れ! 絶対に守ってやるからな!」

「あ、ありがと!」

 嬉しかった!
 また成瀬君を好きになった。
 心と心の距離が近付いた気がする。

 そうだ!
 元になど戻らない。
 私はもうぼっちではないのだから。

 成瀬君がいる!
 私には信じられる好きな人がいるのだ。

 しばらく手をつないでいた。
 だが、

 キンコンカンコーン!

 校内のチャイムが鳴った。

「ゆい、時間だ。俺そろそろ練習が始まるから行く。また明日な」

「うん……私、しばらく屋上にいるよ」

 成瀬君は笑顔で手を振り、階下への出入り口へ消えて行った。
 手を振っていた私は、小さく息を吐いて、空を見上げた。
 ランチの時は真上からさんさんと射していた陽の光が、西から斜めに私を照らしていた。

 しばらく「ぼ~っ」としていたが、このままこの場にいても仕方がない。

 成瀬君の練習は午後7時近くまでかかる。 
 午後7時は私の門限。
 
 だからまた明日のお昼にランチをしよう。
 そして週末は私の方から誘って、ふたりでどこかへ遊びに行こう。

 私はゆっくり立ち上がる。

 その時だった。

「ゆいっ!」

 屋上に大きな声が響いた。
 この声は、聞き覚えがある。

 私が階下につながる屋上の出入り口を見やれば……
 予想外の人物が立っていた。

 階段を急いで駆け上がって来たのだろう。
 来るはずがないと思っていた……白鳥さんが荒い息をして、私をじっと見つめていたのである。