成瀬君の『大事な大事な話』って、一体何だろう?

 心がゆれる……
 いろいろな『想い』が、期待と不安が胸にうずまく。
 そもそも私は……成瀬君をどう思っているのだろう?

 親しい友だちなのは間違いない。
 確信出来る。
 成瀬君は、今まで付き合って来た『同性の友だち以上の存在』だから。

 いつものようにクリームパンをかじり、無糖(むとう)の缶コーヒーを飲む。
 だけど不思議な事に、クリームパンは甘くなく、コーヒーはひどく苦い。

「…………………」

「…………………」

 しばらくの間……
 私も成瀬君も黙ってパンをかじり、コーヒーを飲む。

「ゆい」

「ん、うん……」

「聞いてくれ。俺さ、いつも、自分を(いつわ)って演技(えんぎ)してたんだ」

「自分を偽る? 演技?」

「ホントの俺は、アニメとラノベが大好きなオタクだ。楽葉原(らくはばら)のアニメイベントで会った時の俺を見ただろう?」

 確かに……
 声優(せいゆう)さんの『握手会』に並ぶ成瀬君は浮き浮きしてた。
 サイン色紙を大事そうに抱えていたっけ。

 記憶(きおく)をたぐる私。
 成瀬君の話は続いて行く。

「俺、小学生の時、野球仲間にドン引きされたんだ」

「ドン引き?」

「ああ、女子向けのアニメが大好きだっていったら、キモイ、全然お前らしくないってな」

「それって……」

「全然お前らしくないって、何だ? お前、一体何言ってるって言い返して大げんかになった」

「そうだったんだ……」

「その時、いくら言っても、友だちは分かってくれなかった。俺、めんどくさくなって、本音を言わなくなったんだ」

「…………………」

「俺、野球も大好きだからさ、それから、はっきり区別するようになった」

「はっきり区別?」

「勉強、野球、趣味。それぞれ、分けてたんだ。特にアニメとラノベの話は完全に隠してさ。でも、だんだん苦しくなった……使い分けるのが」

「…………………」

「だけど俺、ゆいと出会った日から変わる事が出来たんだ」

「成瀬君が、変わったの?」

「ああ、俺の友だち、他校の奴が多いけど……言われたよ。お前、凄く明るくなったなあって」

「凄く、明るくなった?」

「ああ、ゆいと一緒に居るお前って、明るくて楽しそうだなって言われた」

「そうなんだ……」

「ははは、それでゆいって、どんな子だって聞かれて、俺、つい自慢したんだ。自分の事のようにな」

「えええっ、それって……ぜんぜん違うよ、私は普通の女子だもの」

「普通じゃないって、ゆいは可愛くて魅力的さ! だから、紹介しろって頼まれたんだ。それも言ってなかったけど、5人だぜ、5人!」

「ええええっ、ご、5人も!? 私を?」

「もちろん、俺はゆいを紹介なんかしたくない。俺の彼女にしたい! ゆい! 俺と付き合ってくれ!」

「な、な、成瀬君っ!!」

 驚いたっ!
 成瀬君が私を?

 さすがにびっくりした私は、呆然として成瀬君を見つめていたのだった。