同時に黒目がにごっていく。


「ちょっと……」


あたしは咄嗟に立ち上がり、皐月ちゃんから離れていた。


皐月ちゃんのショートカットの髪から覗く右耳に、星型のアザが浮かんでくるのを見た。


「ひぃ!」


悲鳴を上げて後ずさる。


「どうした?」


「あ、あれ!」


皐月ちゃんの耳を指差したとき、皐月ちゃんの目が完全に灰色に変わっていた。


その目はもうどこも見ていない。


焦点があわない目であたしを見据えている。


「嘘だろ!」


純也があたしの前に立ちはだかる。


皐月ちゃんはさっきまでの震えも消え去り、俊敏な動きを見せた。


サッと立ち上がると、純也めがけて大きな一歩を踏み出す。


その寸前、純也は近くの椅子を握り締めていた。


それを皐月ちゃんめがけて投げつける。


顔面に椅子が当たった皐月ちゃんは「ギャッ!」と短く悲鳴を上げて倒れこんだ。


その隙に純也はあたしの手を掴んでドアへと駆け出した。


すぐに体勢を立て直して立ち上がる皐月ちゃん。


純也は鍵をあけるのに手間取っている。


「純也、早く!」


皐月ちゃんがこちらへ視線を向ける。


さっきの衝撃で鼻血が出ているが本人は全く気がついていないようだ。