殺人感染

雪と香は大丈夫だっただろうか?


教室内でいつまでも立ち上がらなかった雪のことを思い出し、胸が痛んだ。


「あ、あたし1年生なの。だから敬語じゃなくて大丈夫だから」


女子生徒の名前は神岡皐月(カミオカ サツキ)と言うらしかった。


違うクラスだから今日はじめて知り合った。


「皐月ちゃんは何人の殺人鬼を見てきたの?」


聞くと、皐月ちゃんは青ざめて左右に首を振った。


「すごい人数だよ。みんな目が灰色になって、何を言っても言葉が通じなくなってた」


相当怖い思いをしたのか、自分の体を抱きしめて身ぶるいしている。


「廊下の奥から30人くらいの殺人鬼が走ってきたの。その中にはあたしの友達もいた」


「そうなんだ……。よく逃げてこられたね」


30人の殺人鬼に追われるなんてとんでもない経験だ。


その全員が自分の命を狙っているのだから。


「教室に逃げ込んだの。物陰に隠れてたらあいつらあたしを見つけることができなかったんだよ」


その言葉にあたしと純也は目を見交わせた。


あたしたちもロッカーに隠れているだけで逃げ切ることができた。


あの考えは間違いじゃなかったみたいだ。


「でもさ、友達が殺人鬼になって、誰かを殺すのを見ちゃったんだよね」


皐月ちゃんはそう言ってギュッと目を閉じた。


その時の光景を思い出すまいとしているように見える。