殺人感染

「嘘つき!!」


香の悲鳴が耳を劈く。


鼓膜が破れてしまいそうな声だった。


あたしは咄嗟に両耳をふさいで顔をしかめる。


「お願い香、正気に戻って」


「うるさい!」


香があたしへ向けて包丁を振り上げる。


投げ出してしまった包丁へ手を伸ばすが、それは遠すぎて届かない。


「死ねぇ!」


香の絶叫があたしの胸を突き刺す。


そんな風に思われていたなんて思わなかった。


香からすればあたしは本当にずるい女だったのかもしれない。


それでも……まだ死ぬわけにはいかなかった。


あたしは諦めないって決めたんだ。


純也と一緒に……ううん、みんなと一緒にこの町を出るんだから!


「雪が見つかったの!」


あたしは香へ向けて叫んでいた。


雪の名前を聞いた瞬間、振り上げられていた手の動きが止まった。


「雪、今2階にいる」


「雪……」


一瞬、香の瞳がゆらゆらと揺れた。


それはあたしの知っている香のもので間違いなかった。


「そうだよ。雪は殺人鬼に感染してた。だけど大丈夫、あたしと純也がアザを切り取って元に戻ったから」