殺人感染

香は真面目な表情になり、あたしに背を向けた。


一瞬逃げられるかと思ったが、香はただあたしに背中を見せただけだった。


その背中は制服が大きく切り裂かれ、黒く変色した傷口が開いていた。


あたしは絶句し、後ずさりをする。


「そ、それ……」


どうにか言葉を搾り出すも、ほとんどなにも言えない状態だった。


香は無言でこちらに体を向けた。


その目はあたしを恨んでいるかのように、睨みつけてくる。


香がどれだけ恐ろしい目に遭ったのか、あたしには想像もできていなかったのだ。


刃物を持って襲ってくる殺人鬼からたった1人で逃げた。


そして香はおかしくなってしまったのだ。


「あんたはいいよね。純也に守られて」


香が一歩近づいてきた。


しかし手に持った包丁の先はあたしへ向けられている。


あたしは後ずさりをする。


その時、転がっている死体に足をとられて転倒してしまった。


包丁が手から離れて床に転がった。


「いつもいつもいつもいつもお姫様扱いされてさぁ! どうせ今回だって、ずっと守られてきたんでしょう?」


ゆらり、ゆらりとゆれながら目の前に香が迫る。


あたしは左右に首をふり「そんなことない!」と、否定する。


でも、本当にそう?


いざとなるといつでも純也が隣にいてくれた。


あたしは結局、守られていた。


否定することなんて本当はできないはずだった。