「あら、この事件」
朝のひとときを存分に楽しんでいたとき、テレビを見ていたお母さんが急に渋い顔になって呟いた。
僕は自然とテレビへ視線を向ける。
男性ニュースキャスターが深刻な表情でどこかの町のことを伝えている。
……いや、どこか、じゃなくて、この町だ。
男性キャスターが立っている場所は僕も見覚えのある公園前なのだ。
その瞬間今なんのニュースが流れているのか理解した僕は咄嗟にテレビから顔を背けた。
そんなことをしても意味がないのに。
現実から逃げることなんてできないのに。
聞きたくないと耳をふさいでしまいそうになる。
落ち着くためにお味噌しるをもう一口飲んだけれど、それはさっきまでの味を失い、水のようになって喉を通過して行った。
『ここ、夕浜町ではすでに5人の少女たちが行方不明となっており、警察では誘拐事件として捜査していますが……』
キャスターの声に心臓がドキリと大きく跳ね上がる。
梅雨のせいではない、嫌な汗が背中を流れていく。
「梨乃ちゃんがいなくなって、もう一ヶ月ね」
僕を追い詰めるようにお母さんが呟いた。
それは返事を期待している言葉ではなく、ただの独り言だったみたいだ。
『行方不明になった少女の名前を一部公開します。森田千佳ちゃん、12歳。笹川弘子ちゃん、11歳。角谷風ちゃん、12歳』
読み上げられる名前に梨乃の名前は含まれていない。
きっと、両親が公開を拒否したのだろう。
「みんな小学生ばかりよね。あんたも、気をつけないさいよ」
言われてまた心臓がはねた。
「僕は男だよ」
「そんなの関係ないわよ? いまどき、男だの女だの言わないんだから」
お母さんは真剣な表情で僕を見てくるから、僕はうなづくしかなかった。
朝のひとときを存分に楽しんでいたとき、テレビを見ていたお母さんが急に渋い顔になって呟いた。
僕は自然とテレビへ視線を向ける。
男性ニュースキャスターが深刻な表情でどこかの町のことを伝えている。
……いや、どこか、じゃなくて、この町だ。
男性キャスターが立っている場所は僕も見覚えのある公園前なのだ。
その瞬間今なんのニュースが流れているのか理解した僕は咄嗟にテレビから顔を背けた。
そんなことをしても意味がないのに。
現実から逃げることなんてできないのに。
聞きたくないと耳をふさいでしまいそうになる。
落ち着くためにお味噌しるをもう一口飲んだけれど、それはさっきまでの味を失い、水のようになって喉を通過して行った。
『ここ、夕浜町ではすでに5人の少女たちが行方不明となっており、警察では誘拐事件として捜査していますが……』
キャスターの声に心臓がドキリと大きく跳ね上がる。
梅雨のせいではない、嫌な汗が背中を流れていく。
「梨乃ちゃんがいなくなって、もう一ヶ月ね」
僕を追い詰めるようにお母さんが呟いた。
それは返事を期待している言葉ではなく、ただの独り言だったみたいだ。
『行方不明になった少女の名前を一部公開します。森田千佳ちゃん、12歳。笹川弘子ちゃん、11歳。角谷風ちゃん、12歳』
読み上げられる名前に梨乃の名前は含まれていない。
きっと、両親が公開を拒否したのだろう。
「みんな小学生ばかりよね。あんたも、気をつけないさいよ」
言われてまた心臓がはねた。
「僕は男だよ」
「そんなの関係ないわよ? いまどき、男だの女だの言わないんだから」
お母さんは真剣な表情で僕を見てくるから、僕はうなづくしかなかった。