☆☆☆

「あ~、俺もなにかしてぇなぁ」


樹里と蕾の足が容赦なく飛んでくる中、一樹の呟きが聞こえてきた。


あたしは倒れこんだまま身を丸くして自分の体をガードしているだけで精一杯で、顔を上げることもできないでいる。


「一樹はダメだよ。ボクシングしてるんだから」


樹里の声に、あたしは一樹がどうしてあんなに筋肉質なのか理解した。


そしていつもあたしに興味なさそうな顔をしている理由も。


ボクシングをしているから筋肉はついているし、同じ理由で暴力に参加することはできないから、興味が持てないでいるんだろう。


樹里たちから蹴られながらも、その事実に安心している自分がいた。


少なくても、一番強そうな一樹から暴力を受ける心配はないのだから。


「つまんねぇかぁ」


一樹はそう言うと殴るマネをして見せた。


それだけで拳が風を切る強い音が聞こえてくる。


あの拳で本気で殴られたらどうなるか、想像するだけで恐ろしい。


あたしは丸くなって痛みに絶えながら、そう思ったのだった。