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田中先生に連れられて、あたしはひと気のない廊下の端へ移動してきていた。


視線を田中先生の後方を向けると、B組から顔をのぞかせている樹里たちの姿が見えた。


あたしが余計なことを口走らないようにあそこまでして監視しているのだ。


半ば呆れながらあたしは田中先生に視線を戻した。


「大丈夫か?」


身をかがめて視線を合わせ、心配そうに聞いてくる。


そのしぐさに思わずドキッとしてしまって、慌てて床に視線をさげた。


「大丈夫です」


「なにかあったらすぐに相談しに来なさい」


そういって田中先生はあたしに1時間目の授業の教科書と、ルーズリーフを手渡してきた。


教室で起こった出来事をすでに知っているみたいだ。


昨日スリッパを履いていたから、気にかけてくれていたのかもしれない。


嬉しさが胸に広がっていく。


みんなが敵でも、田中先生だけはあたしの味方をしてくれる。


そんな風に感じられた。


あたしは差し出された教科書とルーズリーフを素直に受け取った。


先生はあたしの肩を軽く叩くと、職員室へと戻って行ったのだった。