「今のって田中先生だよな」


重行の言葉にあたしは首をかしげた。


「見ていなかったから知らない」


先生は食べ物や飲み物を探してさまよい歩いているのだろう。


たとえ目の前に豪華な食事があったって、それを口にすることはできないのに。


そして更に歩き、たどり着いたのは山の麓にある廃工場だった。


ここは5年ほど前にビルが建設される予定だったが、地主と建設会社の間で揉め事があったようで、工事は打ち切りになった。


以来そのままの状態で残されているのだ。


元々周囲になにもない場所に建てようとしていたビル。


それが廃墟同然となってしまった今、周囲は更に閑散とした状態になり、人が寄り付かなくなってしまっていた。


民家やお店がないのは当たり前として、街頭なども見られない場所だ。


あたしはそんな廃墟へと足を踏み入れた。


本当なら10回建てのビルが立つ予定だったようで、今は3階部分までができあがっていた。


といっても、窓は割られ壁にはスプレーで様々なラクガキがされている。


「こんなところでなにをするんだ?」


重行が質問してきたので、あたしは3階部分で足を止めた。


ここには唯一、窓が割られていない部屋が残っていたのだ。


そしてスマホを取り出す。


「面白いことだよ」


重行に沿う伝えて、スマホを操作する。