私は恭介の胸の中で首を横に振った。

「違う。そうじゃないの」

「話せるまで、待つよ」

恭介は優しく、とても優しく私を包んでくれる。

いつも冗談ばかり言っている恭介が、今日は違う。


「優斗くんの会見を観ててね、優斗くんが全然知らない人に見えたの。そしたらなんか悲しくなってきて。今までありがとう、って那美に伝言して私に直接言ってくれなかったこととか、最後の試合で負けたとき、何を思っていたんだろうとか、色々考えちゃって。優斗くんの哀しい顔しか思い出せなくて。なんか泣けてくるの」

「うん。じゃ思い切り泣けばいいよ。声出して、泣けばいい」


私は恭介の胸を借りて、思い切り泣いた。

恭介に対して酷いことをしていると思う。

でも今日だけ、今だけ。

泣いたら忘れる。優斗くんのことは忘れる。