「あの、佐伯くん!」

男の子たちが一斉に私を見る。

その男の子たちの中にサッカー部の子もいるのだろう、

「あれ、優斗先輩の・・・」って声が聞こえた。

うわ。来なきゃよかった。失敗したかも。

佐伯くんを呼び出したのに、思わずそっと扉の影に隠れてしまった。


「君島先輩?」

そう言って佐伯くんが食べかけのパンを片手に持ったまま教室から廊下へ出てきてくれた。

早く用件を済ませて帰らなきゃ。

「今朝は本当にありがとう。助かりました」

「そんな事、いいですよ。模試、できました?」

「うーん、模試はいつも通りかな。可もなく不可もなくってとこ」

「俺はボロボロだったー。今朝、何でか知らないけどすっげー疲れて。酸素足りなくて頭が回らなかった」

佐伯くんはそう言うと、にっこりはにかみ、

「冗談ですよ、そんな顔しないで下さい」

私は申し訳なくて俯いてしまった。

「ごめんなさい」

そんな私たちのやり取りを扉の内側からこっそり聞き耳を立てている佐伯くんのクラスメートたち。

それに気付いてチラッとそちらを見ると一斉に蜘蛛の子を散らすように元いた席に戻って行った。