金曜日の昼下がり。
トイレから出ようとした時、エレベーターホール前の会話が聞こえてきた。

「坂口さー、岡本さんと付き合ってるって噂あるけど、本当?」

心臓が止まりそうになる。

営業部の課長の声。
独特だからすぐ分かった。

「いや、全然付き合ってないですよ」

そして全然動じない坂口くんの声。

「岡本さん、恋人に振られたから必死だろうな」

課長と、坂口くんのペアだ。

私は、やっぱりそう思われるんだ、と意外と落ち着いていた。
前から分かっていたことだ。

二人がエレベーターに乗ったらトイレから出よう。

私はトイレの陰で会話に聞き耳を立てたまま静止する。

「俺だけです」

突然、坂口くんの声が私の耳に飛び込んでくる。

「俺が一方的に好きなだけです」

いつもの坂口くんのストレートな声が私の胸に響く。