世界でいちばん 不本意な「好き」



こんな場所に活動休止中の芸能人がいるなんてバレたらきっと大騒ぎになる。このひとはもう高校に通うどころじゃなくなるんじゃないかな。

隠さなきゃ。

咄嗟にそう思い、かばんから日傘を取り出しながら坂道を駆けると足がもつれた。実を言うと運動はからきしだめだ。


「わっ」

「あぶな、」


身体が前のめりになったと思えば、彼のどこかに飛び込んだ。

ふわりと香ったウッディ系のにおいに顔を上げると「よかった、間一髪」と屈託のない笑みが真上から落ちてくる。


どこもよくない。どこが間一髪なんだ。

それどころか今まででいちばんの近い距離に、思わず昏い空によく似合うにおいをごくりと飲み込む。



「アリス、小さ」


片腕に抱えられながらそんな感想まで言われてしまい、あわてて久野ふみとの身体を押し返す。


「あ、あんたが無駄に身長あるだけだから!」

「そんなないんだけどなあ」


のんきな口調に、すべての文句を言いながら叩いてやりたいような気持ちになる。なんでこっちが焦らなくちゃならないの。なんでそんな、ぜんぜんへいきそうなの。


だけどここで本当に叩いてしまったら何かを認める行動になる気がして小さく深呼吸をした。

落ち着け、わたし。転びそうになってびっくりしただけだ。


とりあえず彼を隠すように日傘をさして傾けた。


「こんな時間に日傘?」


帽子もマスクもつけずに笑いながら尋ねてくる。

いったい誰のためだと思ってるの。


かと言って頼まれたわけでもなく勝手にしていることだから文句が言えない。