世界でいちばん 不本意な「好き」



業務がおわったあと、三角巾で乱れた髪がまるで自分のぐちゃぐちゃな感情みたいで、八つ当たりするかのように編み込んだ。

魚の骨みたいなやつ。それなのにすっきりしなくてただの時間の無駄になっちゃった。


ロッカーに貼りつけた簡易鏡のなかのわたしは、アリス、なんて可愛く呼んでもらえるような顔をしてない。顔も気分もひどい。


ぜんぶ、久野ふみとのせいだ。

関わりたくないのに。
避けたいのに。
考えたって仕方ないのに。
たしかに腹が立っているのに。


どうしてこんなに、つっかえたような気になるのかな。これじゃ本当に魚の骨だ。



工場を出ると空はすっかり昏くなっていた。

まだ夏は遠いな、とぼんやり思いながら長い坂道をくだっていると、今の今まで脳内に無断で居座ってきていた久野ふみとが少し先に立っていておどろいた。


制服を着ていない。かと言って変装らしいへんてこな格好でもなく、シンプルだけど質の良さそうなジャケットを羽織り、まるで大人みたいな姿。

無断に良い見た目に思わず辺りを見渡し、だれもいないことを確認する。


それが気づいた合図みたいになったようで手をぶんぶん振られた。ぜったい振り返してやんない。



「ダッサい格好はやめたの?」

「あ、わかった?これアリスが褒めてくれた回で着てたやつだと思うんだよね」


見たことすらわすれてるんだから覚えてるわけないでしょ。


「また褒めてもらえるかなって思って着てみた。生はどう?」

「どうって、調子にのらないでよ。誰もが自分のことかっこいいって思ってると思ってる?芸能人ってみんなそうなの?」

「はは、厳しー。ちょっとは褒めてくれたっていいじゃんか」


26歳が17歳に褒めてもらいたいとか、どうかしてると思う。


「もう褒めないし…」


言い返そうとしたら少し離れた場所から話し声が聞こえてきた。