世界でいちばん 不本意な「好き」



住む世界がちがう。ファンタジーに近いと思う。そんな人が好きって、すごいなあ。わたしには無理。


「アリス、そろそろ体育館行こ」


紗依が窓際の席から近づいてくる。渡辺って苗字には本当に憧れちゃうよ。


「うん。あ、あっこもよかったら一緒に行こうよ」

「いいの?やったー」


基本的には学年全体で仲が良いけど、とくに1年のころは紗依とあっこと一緒にいたから懐かしい。最後の1年間を一緒に過ごせるなんてうれしいなあ。


「あ、そういえば、このまえ見た映画にあっこの好きなアイドル出てたかも」

「きゃー!はなきみ、でしょ!うち5回も見に行っちゃった」


5回!?飽きそう…熱量がすごい。


「あたしもはなきみ見たよ。史都、すっごくかっこよかった」

「でしょでしょー!告白するシーン、ツンデレすぎて最高だったよね!」


クールビューティーな外見をしてるけど実はミーハーな紗依とあっこは話が合う。

わたしはあまり興味がないから右から左へ…みたいなことが多い。それでも、一緒にいると落ち着くんだよねえ。



「アリスが恋愛映画見るなんてめずらしいね」


そう。わたしは、恋愛映画もドラマも小説も、少女まんがも得意じゃない。

誘われても断っちゃうことが多い。だからしっかり指摘され、思わず肩をすくめた。


「汐くんが見たいって言ったの」


主人公ふたりが、ラストシーン、未来を約束するんだけど、エンドロールのあとに汐くんが「あんなふうにいられたらいいね」って言ってくれて…恋愛映画も悪くないなって思ったよ。


「史都不足だったからはなきみの公開が休止中と被ってよかったよ~。どこかで史都はがんばってるんだって思うとうちもがんばれるもん」

「たしかにそうだよね。推しの存在ってなんでこんな励みになるんだろ」

「ほんっっっっとにそれ!!紗依はピカロだったら(りゅう)が好きなんだっけ?」

「そうだねー。でもタレントのちふちゃんとスキャンダル出てからは箱推しに近いかな」

「流が撮られるのめずらしいし、もうほぼ公言してるもんね。史都はスキャンダルないから安心なんだあ」


やばい、ぜんぜん話しを理解できない。