世界でいちばん 不本意な「好き」



念のため登校時間にはち合せないか警戒をしていたけど、そういえばあのひとはいつもぎりぎりに教室に入ってくる。それを思い出してからは肩のちからを抜けた。どんだけ嫌なんだよ。


昨日校舎案内をしたこととか、寮の部屋が真向いだったこととか、紗依とあっこに言うべきなのかな。

状況が初体験すぎてわからない。あのふたりにとって久野ふみとはピカロの久野史都だから、言うとちょっと面倒な気もする。



もう少し様子を見ようかな…と思っていると、ちょうどあっこが「おはよ!」と声をかけてきた。

隣に甲斐くんもいる。


「おはよう。ふたりで来たの?」


そういえば家も近いって言ってた気がする。


「今日はカイ、陸部の朝練なかったからね」

「そうなんだ。甲斐くんいつもお疲れさま」

「本当だよー。朝練なかったらいつも由佳子と来れんのになあ」

「ぜったいいやだよ」


朝から絶好調の甲斐くんに、あっこ、容赦なし。


「それにカイ、ちゃんと高跳びがんばってるんだからそんなふうに言わないの!」

「え、オレ、由佳子のそういうところ好き」

「……」

「やめてよはずかしい。うちはカイの100億倍!史都が好きだからっ」


そこであのアイドル様の名前、ふつう出てくる?

国民的アイドルグループ・picaroの不動のセンターらしい久野史都に、彼らのデビュー当時からいわゆるリア恋というやつをあっこはしているようで、甲斐くんの一途な告白は一刀両断。


芸能人という雲の上の存在で、ファンがたくさんいて、いつでもどこでもスポットライトを浴びているような人たちに本気を出すより、いつも傍にいて小さいころから自分のことを一途に想ってくれている陸上部エースの気持ちに応えるほうが、ずっとずっと幸せになれる気がするんだけどなあ。