「アリスも寮だったんだ。あまり寮生はいないって聞いてたからびっくりした」
「あー…実家、遠いから」
適当な嘘をつく。
「そうなんだ。親元離れて、なんて、その年でがんばってるな」
だから。
自分の物差しで、他人を測るなっての。
「べつにがんばってなんか ───」
否定しようとしたその瞬間。
ふいに、わたしの後頭部を3回、広い手のひらが跳ねた。
「道理でしっかりしてるわけだ」
おまけに、本日いちばんの、優しく落ちる目尻の笑み。
「……」
くちびるを内に巻いて、こみ上げてくる何かに堪える。
がんばってなんかいない。
寮でのびのび暮らしてる。
それをだれかに、何かを思われたり、したいわけじゃない。
久野ふみとは不要なことは当ててくるのに、こういう気持ちは、察してくれないらしい。
「じゃあ寮のことも何かわかんないことあったらアリスに聞くからよろしく」
「…は?調子にのらないでよ」
「はは。言い返すときは、敬語とれるのな」
だから、うるさいってば。言いかたがいちいち嫌だ。
「同じ学年なんだから敬語じゃなくていいしふみとって呼んでくれたらいいのに」
「は、呼ぶわけないじゃないですか」
「本気で嫌がるのやめてー」
やめてほしいなら本気で嫌がる素振りでもしてくれればいいのに、余裕な態度。
これ以上一緒にいたくない気持ちと平行するように早歩きをして、いそいで寮の前。
久野ふみとの言ったように寮を利用する生徒は少ないわりに、お金持ちのこの学園は寮棟が2つ。男女に別れていて、それぞれの棟へといちはやく背を向ける。
「今日は本当にありがとうね。おやすみアリス」
「……」
少しだけ振り返ると、ゆるく手を振られていた。懲りないひとだな、と思いながら無視をした。
その日は、久しぶりに聴いたおやすみという言葉が柔い声のままずっと耳に残っていた。



