世界でいちばん 不本意な「好き」



それなのにふたりはこっちをキラキラした目で見てくる。


「いやわたしは…」

「でもこのままじゃ暇じゃん。かましたくね?」

「プロの人たちの前でよく披露しようと思うね」


その無鉄砲な感じが、嫌だった。
寧音を選んだ、その感じ。わたしと似てると思ったのに、ぜんぜん見当違いだった。


「失敗したっていいのよ。楽しく弾ければそれで」


完璧が好きな寧音がそう言う。

まるで失敗することが今のわたしたちの完璧みたい。


小さいころは、お母さんも、そう言ってくれてた。


音を鳴らすだけであのひとの笑顔が見れた。


お母さんのよろこぶ顔が見たかった。
だからもっと上手くなりたいと、練習したのよ。


「…わかったよ。天木さん、借りるのお願いします」

「なー、ピカロのデビュー曲やりたい!オレ弾けんだよねー」

「なんて曲?」

「これよ。はいイヤホン」


準備が良い寧音がイヤホンの片方をつけてくる。もう片方は自分の耳へ。

アップテンポな曲調。ピカロはみんなけっこうやわらかい声質で、聴き心地が良くて綺麗。

…あ、ふみとの声だ。

いちばん好きな声の色を追いかけ、音符にして、頭の中の五線譜に並べてていく。


わたしだけのものにできたらいいのに。



「しばらく楽器空くみたいだからいけそうなら声かけて」


ちょうど曲を聴き終えたタイミングで天木さんが戻ってきた。


「もういけるよね?」


寧音の声に頷く。ショーマは驚いていたけど、わたしの才能はふみとの声を離さない。大丈夫だよ。弾ける。

壇上へ続く道をこそこそと歩く。まるで拙いサプライズを仕掛けている気分になる。

少し、たのしい。
ふみとはどんな表情で、わたしを見てくれるのかな。