好きになりたくなかったな。
コントロールできない感情は、もう捨てたかった。しょせん自分の思い通りにならないのが嫌なだけ。我慢ならないで、不貞腐れて。
それすらぜんぶ、ふみとのせいにしたくなる。
「あれ。史都さんに構ってもらえてないんだ?」
…あ、さっきの、bottanの。
「天木千歳さん、も、いらしたんですね。さっきはありがとうございました」
「事務所同士関わりあるからね。あとから気づいたけど、きみときみ、ピアニストだよね」
寧音はともかく、わたしのことまで知ってるの?
「一時期デザインの幅を広げたくてクラシックの勉強してたんだよね。それでピアノの発表会見に行ったりして。見た気がするんだけどちがう?」
「わたしは、もう数年怪我で弾いてないんです。こっちは現役です」
「そうなんだ。今も全く弾けないの?」
「…指怪我してリハビリ中なんです」
「怪我したのだいぶ前なのに、リハビリサボって学園内の学童の手伝いばっかりしてたんですよ」
「…ふーん。今どれくらい弾けるのか、聴かせてよ」
そう言ってステージの黒いピアノを指差す。
この人、たぶん絶対に強引な人だ。
「そっちの男の子は何かできる?」
「オレはギターっす」
「借りてきてあげるから3人で何かしてみてよ。みんな出し物してるっぽいし。暇でしょ、きみら」
どういう理屈?
文句を言おうとしたけど、思いのほかふたりが乗り気で何の曲をやるか話しはじめた。そういうノリは意気投合するの、けっきょく気が合う仲良しじゃん。
「なんの曲やる?」
「あんたができる曲を言ってよ。私たちは知ってたら弾けるんだから」
「なにそのスペック。ピアニストすげー」
のんきに何言ってるの。わたし、やるなんて言ってない。



