「ショーマはちゃらちゃらしてるくせに月湖と変に共鳴し合ってそうな感じが気に食わなかったし、ショーマの前の人は重そうな人で嫌だったの。ショーマの次の人は下心だだ漏れで最悪だった。汐くんは優しすぎたよね。誰よりもマシだったけど。宮坂穂はただのあんたのファンなのに付き合うとかぜったいゆるせない。でも、だけど、ふみとさんは、いい」
なんだそりゃ、と、何かを解ってそうな声色でショーマがつぶやく。
「月湖は、他人のためには弾いてないだろうし、身勝手な気持ちを押しつけられても嫌だろうけど、私はどんなかたちであっても、ピアノを弾いていてほしい。それが月湖の宿運だって思ってる。…じゃなきゃ、浮かばれない。圧倒的な才能の差。努力したぶん身についてくそれに、追いつこうとして憧れてる私たちが」
「……」
「だけどひとりでいてほしいわけじゃない。有栖川先生たちは、ピアニストは孤独であるべきだって心や頭のどこかで思ってるんだろうけど、私は、月湖がひとりでいることを望まない。だから誰かに一番にしてほしいって考えは否定しない。その相手に、ふみとさんは、適っていると思う。あのひとは、月湖に無理強いを絶対にしないから」
重くて、痛くて、苦い。
まるで深い深い湖の底。そういうものを、寧音から感じる。わたしたちはきっと親友には戻れない。だってここまで寧音がわたしのピアノに憧れていてくれたこと、知らなかったから。
寧音も言いたくなかったと思う。
張り合って、競って、煽って怒って笑っていたあの時間は、きっと寧音が作りあげてくれていたものだったんだ。
「無理しないで、自分の思うままに弾いてほしい」
「寧音…」
「あのひとはきっとそんな月湖の音を見つけてくれる」
この想いを裏切ったらだめだ。
今度こそ。



