世界でいちばん 不本意な「好き」



自分の部屋に行ってしまった。


「はりきってんな。寧音うれしそう」


他人がうれしそうでうれしい、みたいな表情をするわたしの元カレ。何これ。

寧音と音彩ちゃんのピアノの部屋で、ショーマとふたりでいるのも不思議な感じ。



「自分がピアノやってるって言わなかったのもこの部屋に入れなかったのも、わたしのせいだと思う。わたしがショーマに言わなかったから、寧音は言えなかったんだと思う。…ごめん。寧音がやってること、応援したり褒めたりしたかったよね」



わたしたちの関係も、頑なに内緒にしていた。だれにも言いたくなかった。ピアノを弾くこと、だれにも知られたくなかった。

寧音はただくだらない意地に付き合ってくれただけ。


「わたしのせい、ではないんじゃねーの。それを選んだのは本人じゃん。しかもけっきょく寧音はオレやふみとの前でアリスのピアノの話をしたし、アリスはオレを寧音の発表会に連れてった。寧音は吹っかけるタイミングを待ってたんだよきっと」


吹っかけるってけんかみたいに言う。たしかに言い合いになったけど。だってあんな人前でバラさなくていいと思うの。

勢いで言われたのかと思っていたけど、ショーマの見立ては、準備されてた意地悪らしい。


「タイミング?」

「またアリスが弾きたくなるタイミングを静かに待ってたんじゃねーの」

「こないかもしれなかったのに?」

「それはあれだ。祈るような気持ちだったんだろうなって。そうしたら、ふみとがアリスの前に現れたんだ」

「………」



久野ふみととの出会いは、完璧に誤算だった。

うまく生きようとして今までを捨てたはずだったのに、イレギュラーな出会いをきっかけに、また拾わされる羽目になる。