世界でいちばん 不本意な「好き」



一度聴いたら音符の列は頭に浮かぶ。

テンポも覚えられる。神様からもらった才能。


「寧音が左弾いて。まだリハビリ中なの」

「やだやだ、聴きたい。連弾はまたあとで」


嫌がれるかと思ったけど連弾はあとでやってくれるらしい。


まだ満足には動かない。満足できるようになるかもわからない、自分で傷をつけた大切だったもの。

それを居場所だった鍵盤に置く。

はじめの音、つぎの音、そのつぎの音を、生み出していく。


寧音が口ずさんでいる。
いつも憎まれ口を言ってくる声と同じじゃないみたいにきれい。

そのうちショーマが入ってきた気配もしたけど、最後まで弾いた。


「すげー。アリスって本当にピアノ弾けたんだ。めちゃくちゃうまくね?」

「あたりまえでしょ。うまいへたで計らないでほしいくらい、月湖の音は、美しいの」

「へぇー」

「あんた、仮にもギターやってるんだからもうちょっと理解したらどうなの」

「音楽って受け取る側は自由じゃん。オレはアリスのピアノ、すげーうまいなって感想なの。寧音のピアノもそうだった。心から感動してる。言葉にすると伝えにくいけどさ」


寧音は不満そうだけど、わたしは、けっこううれしい。じゅうぶんだ。


「つーか、ふたりともと付き合ってたのにふたりがピアノやってることも仲良いってことも知らなかったんだけど。この部屋もはじめて入ったし」

「「仲良くないもん」」

「一緒に撮った写真とかあんの?」

「あるに決まってるでしょ。ちょっと待ってて」


え、見せるの?